エッセイ:平山健雄

光の旅人

中世の知を識る人達は、聖堂の窓に光りの言葉として聖書とそれにまつわる物語を描いた。魂の救いと来世への希望をも含めて。

水の力と風の力を合わせ持つ蒸気タービンが発明された国は同時に未来への不安を予言した近世の到来を告げ、希望への光は暗闇を浮かび上がらせる観念に変貌をとげた。

光はどこへ向かうのだろう。個性を尊び、個性では実現し得ないことも知り。現代の知は空間を点在するカオスの中にうずもれている。

光と闇のはざまを訪ね歩く私の制作は、光の地平から届く霧に満たされ過去と未来を反すうする一人の旅人のようでもある。

 







光の巡礼

ステンドグラスが誕生した時に初めてガラスを透過した過去の光を、時を超えて私達は「今」見ることが出来る。純粋な思いで創作された聖なる世界が、聖堂の内なる空間に息づいて、光の先人達の思いが私達の内に甦ってくる。未来へ光をつなげてゆきたいとの私の想いはエネルギーとなって内なる光へと変換され光の記憶はやがて光へのペルリナージュ・巡礼となり、光の果て、因果の地平へと向かってゆく。

 

アルザスのヴェルダートル

ムッシュー・ルネ・ジルー。この名前を口ずさむと私の中にパリで学んでいた過去の時代が瞬時に甦ってくる。職人肌のこの教授の、ワインリストから望むワインを一本選ぶ時の鋭い眼差しを。私はそれを「教え」としてステンドグラスの技術と同等に学んだ。朝霧に輝く一房の葡萄にはステンドグラス制作に最も頻繁に使う色ガラスであるヴェルダートルの光が宿っているようだ。
私が3年間の留学生活を終え日本へ戻る時、ジルー先生から一言お話があった。「日本のステンドグラスの未来はTakeo、君の両肩にかかっているのだよ。」私はその言葉を真に受けて、これからも制作を続けてゆくことであろう。


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