フランスの芸術であるステンドグラスの日本での歴史はわずか100年程度しかありません。それもアメリカ経由のアールヌーヴォー、アールデコの様式が多く、中世ヨーロッパ12世紀からの歴史は今まで全く顧みられませんでした。建築物にステンドグラスを取り入れるには、先ず歴史的なその「成り立ち」を知る必要があります。膨大な資料からのごく一部ですが、皆様の参考になると思います。 |
9世紀 世界で最初のステンドグラスは、フランスのステンドグラス研究家ジャン・ラフォンによるステンドグラスの定義『色板ガラスに絵付けが施され、その絵付けが焼成され、鉛の桟によってつなげられている』に沿った物として1932年にドイツのロルシュ修道院の発掘で出土したキリストの頭部と思われるガラス片が上げられる。これは、9世紀の作例と推定されている。 10・11世紀 ロマネスクの時代 フランスアルザス北部、ヴィッサンブールのサン・ピエール・エ・サン・ポール教会から出たキリストの頭部のガラス(現在、ストラスブール、ノートルダム美術館に展示)が破損せずに残っている最古のものと云われている。他には、ドイツ=アウグスブルグの四人の預言者、1100年がある。 12世紀 修道士テオフィルによって教会堂を飾る工芸品に関する技法書が書かれている。 パリ郊外バジリク・サン・ドゥニ大修道院長シュジェールの命によりゴシックの時代のステンドグラスの制作が始まる。 パリ近郊イール・ド・フランス=シャルトルノートルダム大聖堂西正面、ル・マン=サン・ジュリアン大聖堂、ポワティエ大聖堂。 |
13世紀 シャルトルの西正面以外のステンドグラスはほぼこの時代の前半に作られている。13世紀はステンドグラスの爛熟期と云え、すぐれたゴシック様式の大聖堂建築とステンドグラスが多く見られる。 フランス=ブールジュ、ラン、パリノートルダム、サント・チャペル(パリ)。 イタリア=アッシジ・サン・フランチェスコ大修道院 スペイン=レオン大聖堂 イギリス=カンタベリー 14世紀 スイスのケーニヒスフェルデン礼拝堂に代表されるスタイルは、オートリーヴ修道 院など以前シトー派と云われた所にも見られる。フランスではアルザス・ロレーヌ地 方にすぐれた作例が残っている。 フランス=コルマール、メッツ、エヴルー イギリス=イートンビショップ 15世紀 モザイク、テンペラ、フレスコそしてステンドグラスなど教会の壁や窓を飾るひとつ ひとつのメチエの技法が集約され油絵の発明に至り、15世紀のイタリアルネサンス を迎えるが、ステンドグラスは逆に油絵の影響で写実的なものが多くなる。 フランス=ブールジュ、セレスタ、ヴュータン イタリア=フィレンツェ ドイツ =ニュルンベルグ スペイン=トレド イギリス=ヨーク |
16世紀 フランスでは13世紀末に発明された、ガラスに輝く黄色を発色させる技法ジョー ヌ・ドゥ・アルジャンが、天使の金髪や聖人達の頭光などに多く使われ、又、金から 発色される紅色、ジャン・クーザンが頬に使われるなど、描写的な絵付けがルネサン スの波及により広まっていった。 フランス=ボーヴェ、オータン、ルーアン、サンス、サン・ジェルヴェ、シャンティイー 17世紀 描写的な絵付けはさらに進み、色ガラスに様々な色絵付け、エマイユ(エナメル) が施されるようになり、油絵と同じ様な表現が可能になる。しかしその写実的な絵画 表現が返ってガラス特有な透過光の美しさを損ないがちになってしまった。17世紀以降ステンドグラスではデカダンスの時代と云われている。 フランス=サント・エチエンヌ・デュ・モン、サン・シュルピス(パリ) イギリス=オックスフォード 18世紀 宗教改革の影響でステンドグラスとしては不毛の時代とされている。ゴシックリヴ ァイヴァルのスタイルも垣間見られるが、新鮮なものでは無い。大聖堂のステンドグ ラスは子供達の石投げ遊びの的にされたりした事実もある。 イギリス=オックスフォード |
19世紀 ステンドグラス復興の時代。プロスペル・メリメにより、フランス歴史的記念建築 物研究所(モニュマン・イストリック)が発足する。建築家ヴィオレ・ル・デュック などにより大聖堂及びステンドグラス、フレスコ等の修復が始まる。ラファエル前派 、アール・ヌーボーなど多様な芸術スタイルがステンドグラスに影響してゆく。 チェコ=プラハ大聖堂 イギリス=オックスフォード・クライストチャーチ 20世紀 新しい創造的時代の始まり。個性を持った画家の原画によるステンドグラスや建築 との新たな調和を考えた、宗教から距離をおいた作品としてのステンドグラスが目立 つようになる。 ジャン・ジャック・グリューベール、モーリス・ドゥニ、マチス、シャガール、レジェ、ジョン・パイパー、パトリック・レンチェンズ、ピエール・スーラージュ(作家名) 21世紀 ここ数年フランスでは、地方の荒廃し忘れられていたロマネスクのチャペルに、古典的な技法にこだわらないグラスアートとも思える新しいステンドグラスを取り付ける試みがなされている。成否は時を待つことになるであろうが、その進取の感覚はやはり歴史の裏付けなしでは考えられないことであろう。 ステファン・ブルゼール、リシャール・テクシィー、ウド・ゼンボック(作家名) |
参考文献 ・The Europe of The Cathedrals ・Clasmalerei um 800 bis 1900 ・Les Maitres de la Lumieres ・Les Vitraux de Saint-Denis ・Konigsfelden ・L'art du Vitrail en Angleterre ・Nancy Architecture 1900 ・CONQUES Les Vitraux de Soulages ・Vitraux Retrouves de Saint-Vincent de Rouen ・Vitraux de France ・Stained Glass ・Jean Lafond 『Le Vitrail』 |