ステンドグラスの美しさは、その素材である色ガラスの輝きの美しさはもちろんのことですが、ガラスを透過してくる光の変化する美しさにその本質があるように思えます。大正デモクラシー期以来、日本の伝統的なアールヌーヴォー、アールデコ風ステンドグラスは主にアメリカやイギリス製のオパールセントグラスやロールドキャセドラルグラスが多く使われ、国会議事堂を始め、数多くの洋風建築に取り付けられましたが、それらのグラスの特徴として光の透過光の美しさには乏しいものがありました。 |
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一方、ヨーロッパの伝統的なステンドグラスは10世紀以来大聖堂と運命を共にしてきたわけですが、聖書物語が主なテーマで、ガラスピースの形だけでは図像表現に限度があり、必然的にその表面にキリストや聖人たちの目鼻を描くための絵付け用の釉薬、グリザイユが描写に使われ焼成炉の中で焼付けられました。当時使用されていたガラスはクラウン法やシリンダー法で作られた宙吹きの板ガラスで透明度が高く、ガラスを切ってそのままステンドグラスの特徴である鉛桟でつなげただけでは様々な色のガラスから透過してくる光がお互いに干渉し合い本来の色光がハレーションを起こし色が見えにくくなってしまう現象が起きてきます。また目鼻をグリザイユの線で描写してもその線が光のハレーションのためにむしばまれ、見えにくくなってしまうことも知られています。 |
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そこで考え出された方法がグリザイユ技法の中でも調子づけと呼ばれる絵付け技法でガラスの表面に水で溶いたグリザイユを刷毛で施し、炉の中で焼成をします。グリザイユの焼成が施されたガラスは光が落ち着き、それぞれの色ガラスの透過光が微妙に対比し調和を生み出してきます。つまり制作する側がガラスから透過してくる光のエネルギーをグリザイユによってコントロールしながら思いのままに建築物の内部空間に光の演出をすることができるようになります。 |
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透明度の高い手吹きアンティークグラスを使い、グリザイユ技法によってその透過率を調整してゆく伝統的なフランスのステンドグラスの制作技法は、ガラスの美しい素材に寄りかからずに、制作者の光に対する意図を明解に表現することが出来得る重要な技法なのです。 |
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